2017年03月04日 (土) 18:41:00

今週の読書は話題の村上春樹『騎士団長殺し』ほか計7冊!

今週の読書は話題の村上春樹『騎士団長殺し』第1部・第2部ほか、以下の7冊です。通常は経済書を読書感想文の冒頭に置くんですが、例外的に『騎士団長殺し』を最初に置きました。ほかは新書が多く、なぜか、経済書がありません。というか、『経済数学の直観的方法』の新書2冊だけです。それから、今日はほとんど自転車での図書館回りをしなくなり、逆に、図書館の予約本があまり届いていませんでした。来週の読書はさらにペースダウンしそうです。

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まず、村上春樹『騎士団長殺し』第1部 顕れるイデア編と第2部 遷ろうメタファー編(新潮社) です。作者は言わずと知れた我が国を代表する作家であり、毎年9月や10月になるとノーベル文学賞の候補に擬せられる世界的な小説家です。第1部と第2部ともに500ページを超える大作であり、上下巻ではないことから第3部が続く可能性もあり得るんではないかと期待する読者もいそうな気がしますが、第2部の終わり方からして可能性は小さいと私は受け止めています。あらすじなどはあらゆるメディアで報じられていますのですっ飛ばすとして、参考文献をいくつか上げると、作者ご自身の作品では、異界への進出という点に関しては、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』でやみくろを追うんだか、追われるんだかに似たような気がします。また、その昔に出来た子供の物語としてはエリス・ピータースの修道士カドフェルのシリーズの『氷のなかの処女』でカドフェル自身のパレスチナに残したオリヴィエという20代半ばの息子との邂逅を思い出しました。また、やたらとセックスのシーンが多い点については山内マリコの一連の小説が思い浮かびました。最後に、絵画という点では綾辻行人の一連の館シリーズの幻視者として登場する画家の藤沼一成を連想させました。最後に、第2部の終了部分からは第3部は可能性小さいんですが、逆に、第1部冒頭のプロローグでは異界の川の渡し守の顔のない男が主人公からかつて預かったペンギンのお守りを対価に肖像画を描く約束を求めて訪れるも果たせず再訪を予告するシーンがあり、この部分からは第3部が続くことが期待、というか、予想されなくもありません。たぶん、続くんでしょう。私自身の評価としては、前作の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』よりは格段に読み応えあると考えますが、『1Q84』との比較は第3部が出てから、あるいは、さらにその先の続編が出てから考えますが、現時点では『1Q84』にはかなわない気もします。誰かの個人ブログで見かけたんですが、読んだ人向けながら、とても分かりやすい画像へのリンクを貼っておきます。


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次に、フランク・トレントマン『フリートレイド・ネイション』(NTT出版) です。著者はドイツ生まれで米国ハーバード大学で博士学位を取得した英国のロンドン大学の研究者です。エコノミストというよりはヒストリアンです。英語の原題は邦訳そのままに、2008年のリーマン・ショック前後に出版されています。出版からほぼ10年近くを経過していますが、それほど賞味期限切れという感じはしませんでした。というのは、本書の歴史的なスコープは19世紀後半から20世紀前半の戦間期をもって終了しているからです。地理的なスコープとして英国を対象に自由貿易を論じているわけですが、本書の最大の特徴は、自由貿易を大文字で始まる倫理的あるいは思想的な文化とか信念とかの体系と小文字で始まる取捨選択が可能な経済政策のツールを区別している点で、極めて大雑把にいえば、主として本書の前半で文化や信念の体系としての大文字の自由貿易を論じ、後半では政策ツールとしての小文字の自由貿易を論じています。日本では自由貿易とか、貿易自由化を論じる際に、我が国の消費者団体、主婦連とか地婦連とかは食の安全性の観点から外国産の農産物が入りやすくなる貿易自由化には反対するんですが、英国では、というか、19世紀後半20世紀初頭の英国では消費者自身が安価な食品輸入を求めて自由貿易擁護の傾向を持った点が大きく異なります。経済学的には自由貿易が一国の利益になるのは、不利益を被るグループへ対してその補償を行うという限りにおいて、なんですが、そういった経済学の観点ではなく、本書では世界に先駆けて産業革命を達成し「世界の工場」となった英国の民主主義と自由貿易と資本主義といった思想や信念が国のアイデンティティの形成にどのようにかかわったか、また、20世紀の第1次世界大戦後に米国や他の欧州諸国からの追い上げを受けて英国がもはや世界をリードする大国でなくなり、いかにして自由貿易を放棄して行ったか、といった歴史的な観点から自由貿易、というよりも、一般的な小文字の自由貿易ではない英国独自の大文字の自由貿易に関する思想のようなものの考察を進める本書の読書は、昨年の英国の国民投票によるEU離脱、いわゆるBREXITとか、米国の大統領選挙で当選したトランプ大統領の保護主義的な傾向を有する通商政策などを考える上で、それなりの知的な貢献が出来そうな気がします。大判で500ページ近い大作ですが、それなりの価値はあるかもしれません。日経新聞と読売新聞の書評へのリンクは以下の通りです。


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次に、『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』『経済数学の直観的方法 確率・統計編』(講談社ブルーバックス) です。これはおそらく、私の商売道具に近いという印象を持ったため、『騎士団長殺し』と同じように書店で買い求めました。1週間分の読書感想文で4冊も買った本が取り上げられるのもめずらしい気がします。この2冊はマクロ動学モデルのひとつであるDSGEモデルを理解するための『マクロ経済学編』とブラック・ショールズ・モデルを理解するための『確率・統計編』の2さつであり、どちらも初級・中級・上級の3部構成となっています。ただ、『マクロ経済学編』にはオマケが3章あり、微分方程式の基本思想、固有値の意味、位相・関数解析が収録されています。どのような読者にも対応した作りになっている気がしますが、ある程度の基礎的な理解力あれば、2冊で数時間かければ読み切れると思います。それで、直観的には経済数学のある程度の部分が理解できる可能性があります。その点については素晴らしい本だという気もします。ただ、経済数学はDSGEの動学モデルとブラック・ショールズだけではありませんし、少なくとも、オマケのない『確率・統計編』にノンパラメトリックな確率統計論がオマケで欲しかった気がします。もうひとつ、「これだけ理解できれば、経済学部卒業くらいの知識が身につく」といった趣旨の表現が何か所かにありましたが、経済学部の教員経験者としてカンベンして欲しい気もします。ちなみに、確率統計論のうちのランダムウォークについてのエッセイを地方大学に出向していた際に私は紀要論文で残しています。ネイティブ・チェックもない英文で、数式がいっぱい展開してあって読みにくいかもしれませんが、以下のリンクの通りです。


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次に、NHK取材班『総力取材! トランプ政権と日本』(NHK出版新書) です。著者はNHK取材班ということで、その取材班のトップはNC9のキャスターをしていた大越記者だったりします。ほぼ、昨年いっぱいのトランプ大統領の動向を米国に出向いての取材により明らかにしようと試みています。もちろん、今までのいわゆる「トランプ本」と大きく異なる点はないんですが、締切りが早かった分、やや楽観的なトーンでまとめられ、ひょっとしたらTPPに復帰するんではないか、といったトーンも見られなくもないんですが、それも程度問題です。すでに辞任してしまったフリン前補佐官の就任前インタビューで、米国の最大の脅威は経済であると喝破していたりします(p.171)。でも、トランプ大統領誕生の最大の受益者はロシアのプーチン大統領であろうという点については、多くの識者が一致しているような気がします。やや中途半端な時期に編集された新書ですが、米国大統領の権限がそれほどでもなく、入国制限が裁判所によって簡単にひっくり返されるなど、もう少し大統領制についての取材も欲しかった気がします。

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最後に、森山優『日米開戦と情報戦』(講談社現代新書) です。著者は日本近現代史やインテリジェンスの研究者であり、新潮選書で『日本はなぜ開戦に踏み切ったか』の著者です。この前著は私も出版からかなり遅れて読んだんですが、1940-41年当時の我が国の陸海軍省、参謀本部、軍令部、外務省などの首脳や幹部が対外軍事方針である「国策」をめぐり、迷走の末に対米英蘭戦を採択したわけですが、その意思決定過程をたどり日本型政治システムの致命的欠陥を史料から明らかにしています。本書はその前著の姉妹編であり、日本国内だけでなく戦争相手の米英のインテリジェンスによる情報収集や意思決定についても軽くスコープに入れています。前著と同じように、軍部を含めて我が国政府機関の意思決定における両論併記や非(避)決定について論じるとともに、インテリジェンス活動についても取り上げています。ただし、最後の最後に著者自身が明記しているように、日米英の3か国において、正しい情勢判断を出来たのは、日本でいえば幣原であり、米英でいえば駐日大使であったそうだが、要するに、暗号解読により入手したインテリジェンス情報に接した政府幹部・首脳は強硬論に走って戦争に進む結果になって情勢判断を誤り、オープンソースを主とした情報源と現地情報を肌で知る外交官が戦争回避に動いて正しい判断を下すことが出来た、と論じています。特に、著者は南部仏印進駐が開戦を決定つけたと結論をしていますが、それを正しく見抜いたのは日本では幣原だけだったそうです。日本政府の両論併記や非(避)決定の過程については前著の方が詳しいんですが、タイトルにあるインテリジェンスの活用については本書の方が詳細に渡り、併せて読むとよく理解できるのかもしれません。
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