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2009年12月29日 (火) 19:54:00

今年最後の経済ブログ - 長崎は貧しいか?

実は、先週に長崎と東京でいくつかメディアの取材があり、地方経済とか、長崎経済についていろいろとお話ししました。私は本来は日本経済論担当であって、地方経済やましてや長崎経済は詳しくないんですが、一応、今年の締めくくりとして地方経済や長崎経済について、あるいは、東京や都市圏との格差について私なりの考えを取りまとめておきます。
まず、「長崎は貧しいか?」という、直球ど真ん中の質問を受けました。私の答えは Yes, it is. で、「長崎は貧しい」と答えて、ど真ん中の直球をバックスクリーン方向へ素直に打ち返しておきました。ひょっとしたら、否定的な回答が期待されていたのかもしれません。でも、大雑把に、経済的な豊かさの指標をみると、都道府県別で長崎は下から5番目くらいに入ります。全国で下から10パーセントといえます。これを貧しいと言わずして何と言うべきか、エコノミストとして事実を直視しないのは最悪の態度です。なお、今日の統計はすべて総務省統計局の『日本の統計』から取っているんですが、まず、1人当たり県民所得です。p.63 表3-15 県民経済計算から作成したグラフです。

1人当たり県民所得

見れば分かると思うんですが、1人当たり県民所得が低い順に並べてあります。横軸の単位は1人当たり年間百万円です。最高は東京都で1人当たり4.8百万円、最低は沖縄の2.0百万円、長崎は所得の低い方から5番目で2.2百万円です。全国平均は3百万円を少し超えたところで、広島や大阪あたりになります。まあ、下から5番目で東京の半分以下なんですから、繰返しになりますが、これを貧しいと言わずして何が貧しいのか、と考えるべきです。もっとも、豊かさや貧しさはレベル=水準だけで決まるものではなく、モメンタム=方向性も大いに関係します。例えば、中国は平均的に水準では日本よりも所得が低いんですが、日本よりも伸び率が大きいですから将来への期待は高く、その分、貧しいとは感じない場合もあり得ます。所得水準に話を戻すと、この長崎の貧しさの原因は人口減少にあります。特に、自然増減ではなく社会的な転出入で人口が減少しています。下のグラフは p.23 表2-16 都道府県別転出入者数のデータからグラフを作成しています。

都道府県別転出入者数

これも、純転入が少ないというか、純転出が多い順でソートしてあります。2007年度1年間で純転出が最も多いのは北海道で、次いで青森、長崎となっています。純転出が1万人を超えているのはこの3道県だけです。この指標を見ても、長崎が貧しいと言わざるを得ません。そして、この貧しさと人口減少は、いわゆる「ニワトリとタマゴ」の関係にあります。すなわち、人口減少と経済の停滞が長崎においては負のスパイラルに陥る瀬戸際にある可能性を指摘しておきたいと思います。そもそも、人間がどこに住むかといえば、私は経済的な所得とアメニティの関数だと考えています。この場合の「アメニティ」とは私独特の用語かもしれませんが、各個人にとっての暮らしやすさとか、言葉とか、雰囲気は理解できると思います。所得はマクロの意味でバッチリ数量化できますが、アメニティは個々人のマイクロな感じ方ですから数量化は難しいです。でも、長崎から転出している人が多いということは、所得を求めてアメニティを犠牲にしている可能性があります。
そして、長崎ではそのことに気づいていない人が多い可能性もあります。私の長崎での言い分は、パングロシアンに「それでいいのだ」や「これでいいのだ」はバカボンのパパに任せておけばいいんであって、九州は今や「どげんきゃせんといかん」の状態に入りつつある、というものです。もっとも、私は九州言葉に詳しくないので、「どげんきゃせんといかん」であってるかどうかは自信がありません。さらに、残された時間はそんなにありません。一般的に、全国レベルの経済問題も含めて、残された時間は最大で10年くらいと私は考えています。理由は、昨年の流行語大賞にノミネートされた「アラフォー」という言葉がありましたが、元気あるこの「アラフォー」世代が50歳近辺になるまでの間に「どげんきゃせんといかん」と受け止めるべきだからです。昨年のこのころに取り上げた年金改革についても、50歳を境にして人間は変革に対して否定的になるというのが世界の常識です。ですから、一般的に10年であって、長崎の場合は全国平均よりも状況が悪いですから、それよりも短く残り5年くらいと考えた方がいいかもしれません。
ただし、1点だけ指摘すると、現在の東京との格差2倍は許容できる範囲だということです。いつも話題になる「1票の格差」の裁判の判例ではありませんが、「法の下での平等」を保障した憲法下ですら2倍の格差を許容する判例が主流となっているんですから、経済的な格差がマクロの平均ながら2倍というのは許容すべき範囲です。しかも、最低ラインが沖縄の1人年間2百万円ですから、この平均額であれば3-4人家族を考えるとシビルミニマムを十分に満たしているような気もします。マイクロな地域内の格差については地方経済圏よりも都市経済圏の方が大きい可能性もありますから、ここで論じることは差し控えます。

私は同じことをお話したつもりなんですが、解釈については編集者に広範な権限を認めていますので、今までも、同じことをお話したつもりなのに、かなり違った角度で取り上げられたこともあります。いくつかのメディア、長崎ローカルのメディアと全国のメディアでどのような取り上げられ方をするかにも興味があります。
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コメント

●長崎は貧しいか

なるほど、「所得」と「アメニティー」は生活する上で重要な要素ですね。
東京のアメニティーは低水準ですが、その分を高い水準にある所得でカバー?していると言えます。
長崎は、低「所得」であっても、物価が安く、環境も良いでしょうし、高「アメニティー」だと思います。
生活してみたい地でもあります。
konti526 |  2009.12.30(水) 10:18 |  URL |  【コメント編集】

●中所得、中アメニティはないんでしょうか?

どうも長崎と東京は両極端に位置するような気がします。程よいところというのがありそうでなさそうで、悩ましいところです。
ポケモンおとうさん |  2009.12.30(水) 16:06 |  URL |  【コメント編集】

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