2015年08月29日 (土) 10:32:00

今週の読書は日本経済研究センターの『激流アジアマネー』ほか、高嶋哲夫『富士山噴火』など

今週の読書は、『激流アジアマネー』ほか、経済書と専門書・教養書と小説を取り合わせて以下の6冊です。

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まず、小川英治/日本経済研究センター[編]『激流アジアマネー』(日本経済新聞出版社) です。世界の成長センターとなっているアジア新興国の高成長のバックグラウンドで貯蓄がかなり過剰になってきており、米国連邦準備制度理事会(FED)の前の議長であるバーナンキ教授が "global saving glut" と呼んだ現象などを解明すべく、アジアの金融の分析を提供しています。ただし、章別に精粗区々の内容です。フォーマルな定量分析もあれば、雰囲気で押し切っている分析もあります。資本や金利の規制から自由化に向かうアジア金融の方向性だけでなく、高齢化による貯蓄率の低下や機関投資家の育成、さらに、証券化によるオフバランス化の進展の影響など、最後にはマレーシアの例を解説したイスラム金融まで、包括的にアジアの金融を視野に収めています。私にとって興味深かったのは、第8章で中国の金融改革と自由化を分析した年表のような日中比較の表が pp.218-19 にあり、ちょうど日本から中国が20-30年遅れで進んでいるのがとてもクリアに理解出来ました。

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次に、ジェームズ J. ヘックマン『幼児教育の経済学』(東洋経済) です。著者はいうまでもなくノーベル賞経済学者であり、シカゴ大学の教授です。専門分野は労働経済学などのマイクロな経済学です。本書はボリューム的に決して分厚い本ではなく、しかも、ヘックマン教授はパート1と3のみで、パート2は各分野の専門家からの寄稿、最後に大竹教授の解説が付け加えられています。基本は、就学前の幼児期の教育投資が米国経済の不平等の解決などに有効であり、遺伝子ですべて決まるわけではない、ということであり、さらに、いわゆる学力やIQに代表される認知的スキルだけでなく、健康や協調性、意欲や自信などの社会的・情動的性質も社会で成功するためには大いに有効、という結論です。極めてまっとうな結論だと受け止める読者も少なくないと私は想像しますが、このまっとうな結論が実行されていないところに不平等な米国の経済社会の実態が浮かび上がるともいえます。この幼児教育の重要性に真っ向から対立する主張を読み取られかねないのが、私が先日読んだ柚木麻子『本屋さんのダイアナ』ではないかと危惧しています。

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次に、山室恭子『大江戸商い白書』(講談社選書メチエ) です。著者はエコノミストというよりも日本史の研究者であり、東京工業大学の教授です。現在の国勢調査に相当するような江戸町奉行所の悉皆調査の結果や膨大なデータベースである全7巻の『江戸商家・商人名データ総覧』を基に、さまざまな数量分析が試みられています。その結果として、商家の存続年数は15年余りに過ぎないとか、商家の存続は親子間の相続といわゆるのれん分けによる非血縁譲渡であるとか、業態別では米屋と薪炭屋が店の半分を占める、などが明らかにされています。特に、お江戸の『江戸買物獨案内』のようなショッピングガイドに示された華やかな江戸文化ばかりではなく、庶民の消費に焦点を当てていくつかの注目すべき結論を引き出しています。すなわち、店のロケーションと数について、店数の多い米屋と薪炭屋は、消費量が多く、重量も重く、付加価値が小さく、多様性が少ない、という商品を扱っており、かなりスミス的な完全競争市場に近い概念であるのに対して、薬種や化粧品や呉服などの商品を扱う店では、消費量が多くなく、重量も重くなく、付加価値が大きく、商品の多様性が幅広いため、当時の都心であった日本橋周辺に決して多くない店数の大店が扱っていた、という結果が示されており、商品特性と商店の位置や規模に関して、それなりの説得力ある結論ではないかと思います。

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次に、デイビッド・シャンボー『中国グローバル化の深層』(朝日新聞出版) です。著者はジョージ・ワシントン大学の教授であり、ブルッキングス研究所の研究員、もちろん、専門は中国との国際関係論です。ホームグラウンドはワシントンDCであることもあって、私の不確かな知識によれば、民主党系の研究者であり、従って、オバマ政権下で在中国大使の候補に上げられたこともあります。英語の原題は China Goes Global です。鄧小平の言い出した「韜光養晦」の下、目立たないように力を蓄える、を基本方針としてきた中国がいよいよ国際舞台で台頭の時を迎えたのか、などのいわゆる「中国脅威論」に対して、経済的にはその兆しがあるものの、少なくとも政治・外交面では中国はまだまだ「未完の大国」partial power であり、ゼーリックのいうような「責任あるステークホルダー」ではない、と断じています。私も基本的には同じ見方をしており、少なくとも現時点で中国は世界的な大国にはなっておらず、せいぜいがアジア中心の regional で partial な power ではないかと考えています。本書では中国に関して、外交的なプレゼンス、経済的なプレゼンス、文化的なプレゼンス、安全保障面でのプレゼンスなどを包括的に幅広く検証していますが、原著が2013年出版であるにもかかわらず、中国の外交的プレゼンスでは、近隣のアジアや米国や欧州やロシアはもちろん、アフリカやラテンアメリカまで中国外交の対象として取り上げられている一方で、なぜか我が日本は中国外交の対象として取り上げられていません。そんなもんなんでしょうか?

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次に、高嶋哲夫『富士山噴火』(集英社) です。この著者の作品の中の位置づけとしては、『M8』、『TSUNAMI 津波』、『東京大洪水』の災害サスペンス3部作に続く4作目です。登場人物であった自衛隊の松浦一尉は亡くなり、その妻だった河本議員が瀬戸口博士と再婚しています。でも、本作品の主役は御殿場の高齢者施設の施設長をしている元自衛隊一佐のヘリコプター・パイロットです。瀬戸口博士の研究所にいる女性の火山学者の出す富士山噴火予想に絶大なる信頼をおいて、この主人公と御殿場市の市長に加えて、警察・消防・自衛隊の関係者が富士山噴火に対応して市民を避難させ、最終的には駿河湾の米国空母に収容されるまでをリアリスティックに描き出しています。このシリーズに前も登場した米国海軍空母クリントンは架空の存在ではないかと専門外の私は認識しているんですが、この先にもしもヒラリー大統領の時代になれば、ひょっとしたら、就航する可能性もなしとしません。なお、ここに上げたこの著者の災害サスペンス3部作は、是が非でも読んでおくべきだと私は思います。

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最後に、伊坂幸太郎『ジャイロスコープ』(新潮文庫) です。この作者の初のオリジナル短編集で、「浜田青年ホントスカ」、「ギア」、「二月下旬から三月上旬」、「if」、「一人では無理がある」、「彗星さんたち」、「後ろの声がうるさい」の7編を収録しています。最後の短編は描き下ろしであり、さらに、最後に10ページ余りのインタビューもあります。最初の「浜田青年ホントスカ」は結末が明示されていなくて、読者に考えさせられる形になっており、それはそれで趣向ある終わり方だという気がします。「if」はO.ヘンリの「運命の道」に似ているんですが、パラレル・ワールド風に仕立ててありながら、実は相当年数後の物語だったりします。私が一番評価しているのは「一人では無理がある」であり、サンタクロースの贈り物に関するストーリーです。最後の書下ろしの「後ろの声がうるさい」はそれまでの短編の登場人物を少しずつからませており、この作者らしい趣向です。
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