2016年08月13日 (土) 17:49:00

今週の読書はややペースダウンして計7冊!

今週は、さすがに先週の8冊からペースダウンして、経済書や専門書とともに、小説や新書も含めて、以下の通り7冊です。もう少しペースダウンしたいと考えていますが、なかなか減りません。

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まず、柴田悠『子育て支援が日本を救う』(勁草書房) です。著者は我が母校の京都大学の社会学分野の研究者です。タイトルや問題意識からして、とてもいい本です。私の従来からの主張である行き過ぎた高齢者優遇をヤメにして、子供や家族に対する支援を充実させ、世代間不公平を平準化させる観点からの指摘が満載されています。結論は第11章p.252にあるんですが、保育サービスの充実、児童手当の増額、企業支援などを政府予算で手当てし、その財源は所得税の累進強化、相続税の拡大、資産税の累進化などの小規模な増税をミックスして当てる、というものです。基本的に私は本書の結論に賛成なんですが、いくつか本書の議論で気にかかる点もあります。ひとつは、いわゆる「どマクロ」の議論であって、最適化行動に基づくことなく、出生率や成長率などのマクロの変数を別のマクロの変数でパネルデータに基づいた回帰分析で算出している点です。ただ、私はこの点は許容されるべきであると考えます。例えば、エコノミストとしてGDPとマネーサプライの関係は、少なくとも多くのエコノミストはそれなりに頑健だと考えています。ただ、著者が社会学の分野ですので、エコノミスト相手の議論と違って、延々とダイナミックパネル分析について解説しているのは冗長な気がします。エコノミストの世界ならば、パネルデータを1階階差GMM推計した、なんていわずに、アレジャーノ・ボンドのパネルデータ回帰、と一言で本書の80ペーくらいまでの延々と解説が続く部分は不要な気がします。ただ、パネルデータ分析ですから、固定効果と変量効果についてはキチンと理由を示して、どちらを取ったのかは説明しなければならない気はします。それから、パネル・モデルというのは、パネル・データを分析する回帰モデルのことなんでしょうが、異様な響きを持っています。「政策効果の統計分析」という副題も、「統計分析」ではなく「計量分析」の方がいいような気がします。もっとも、その昔の20年近く前に、私が人事院に併任されて国家公務員試験委員をしていたころ、私が作った問題を統計に分類するか計量に分類するかで、人事院の担当官が悩んでいた記憶があり、そう大きな違いはないのかもしれません。

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次に、ラス・ロバーツ『スミス先生の道徳の授業』(日本経済新聞出版社) です。著者はスタンフォード大学の研究者であり、本書の英語の原題は How Adam Smith Can Change Your Life であり、2014年の出版です。特徴的なサングラスをかけたアダム・スミスの表紙は、英語版と共通です。というか、英語版はこのサングラスをかけた黄色いアダム・スミスのイラストが全面に押し出されています。ということで、本書では『国富論』で著名な経済学の開祖アダム・スミスのもうひとつの名著である『道徳感情論』から、最近の流行でいえば幸福論的な道徳論を展開しています。私の目から見て、アリストテレス的なエウダイモニアが中心となっている気がしますが、本書ではこの用語は使われていません。もっと平易に、「自分が一番の法則」を克服しつつ、自分の中の「中立な観察者」から見て立派で道徳的な思考と行動を勧めています。中心は第6章から第7章にかけてであり、幸福になるためには愛される人間になることであり、それは、愛されるに値する人間になることを意味し、そのためには、徳を身につける必要を説いています。具体的には、prudence 思慮、justice 正義、beneficence 善行の3点の実践となります。人間性悪説や性善説という言葉も出て来ませんが、基本は後者の立場に立ち、特に、思慮・正義・善行を実践すれば、社会の人々もそれを評価し、他の人々に広まって行く、という「見えざる手」の働きを支持しています。マイクロな分野を専門とするエコノミストで、「ヒトはインセンティブに反応する」というのをやや過剰に支持する場合がありますが、決してそれだけではない、ということがよく判ります。実験経済学の知見とともに見直したいポイントです。

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次に、子安宣邦『「大正」を読み直す』(藤原書店) です。著者は近代日本思想史の重鎮であり、大阪大学名誉教授です。本書は、よく「大正デモクラシー」の表現で、経済的には恐慌、また、政治外交的には戦争の時期の印象ある戦前昭和に先立つ自由でやや華やかな雰囲気ある大正の時期について、日本思想史界の名著を読み直す、というか、私なんぞの不勉強な人間については、大正の時期を代表する名著を紹介する教養書です。大逆事件の幸徳秋水から始まって、大杉栄、河上肇などの左翼系を先に取り上げ、上代神話を批判した津田左右吉、あるいは、和辻哲郎から右翼思想家の大川周明まで、多様な思想家の著作を取り上げ、大正時代の思想を浮き彫りにします。特に、我が国の大正時代は、世界史的には第1次世界大戦やロシア革命があり、現代世界の方向を規定したグローバル化の始まりの時代ともいえ、もちろん、その後の第2次世界対戦とそれに続く冷戦で大きく方向転換するとはいえ、それなりに世界史的にも重要な時期といえます。特に、私の目を引いたのは河上肇です。本書では代表作のひとつである『貧乏物語』を取り上げていますが、河上はいうまでもなく、我が母校である京都大学経済学部を代表する経済学者であり、後にはマルクス主義経済学に傾倒し日本共産党にも入党することとなります。この『貧乏物語』について、本書の著者は欧州の貧困ばかりに着目し、日本国内には目が及んでいないと批判しています。私は本書で取り上げられている大正期の名著は『貧乏物語』しか読んでいないんですが、確かにそうかもしれません。なお、どうでもいいことながら、本書の出版社は経済学などの分野の出版物に対して「河上肇賞」を認定しています。昨年度は該当なしだったと記憶しています。

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次に、石渡正佳『産廃Gメンが見た食品廃棄の裏側』(日経BP社) です。著者は千葉県庁で産業廃棄物処理行政を担当していたことがあり、タイトルに見えるように、本書でも自らを「産廃Gメン」と称しています。その関連の著書も何冊かあるようです。ということで、事件は今年2016年1月に発覚しており、愛知県一宮市に本社を置く壱番屋が展開するカレー専門店チェーン最大手の「カレーハウスCoCo壱番屋」が廃棄した冷凍カツが、何と、スーパーの店頭などで売られ消費者の口に入っていたものです。愛知県警の調べによると、みのりフーズの倉庫からダイコーが処理を受託した21社35品目60製品の廃棄食品が発見されたそうです。とてもショッキングな事件でした。しかし、本書ではこの事件は、食品廃棄物は年間2800万トンと、年間国内農業生産量2650万トンを上回る我が国の食料自給率の低さの下では、食品廃棄が追い付かないと指摘しています。しかも、廃棄物処理業は処理対象たるモノと料金を同時にもらって、通常取引のように、モノと料金が反対方向に動くわけではないため、処理対象たるモノをそのまま積み上げておくだけで売り上げになることから、不法廃棄やゴマカシの温床になる可能性も指摘しています。さらに、環境省と農林水産省が錯綜する食品廃棄の規制システムも、私なんぞの専門外の人間にはサッパリ判らず、抜け穴がありそうに見えなくもありません。特に第4章では、そもそも「廃棄物」の定義すらあいまいな法制度の実態を取り上げています。最後の第5章では、かつて不法廃棄の悪玉呼ばわりされていた建設廃棄物が、例えば、木くずなどをはじめとして、選別・再利用するシステムを開発して不法投棄が激減した実績にならって、食品廃棄物もランク分けして部分最適化を排した上で全体を最適化する制度設計を提案しています。まったくの専門外ですので、よく理解できない部分も少なくありませんでしたが、食品廃棄は食品ロスや食料自給とともに重要な問題ですし、それなりの意識を高めておきたいと実感しました。

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次に、天野節子『午後二時の証言者たち』(幻冬舎) です。この作品の著者は60歳を迎えて『氷の華』を自費出版してから著名になったミステリ作家で、私はデビュー作『氷の華』のほか、『目線』、『烙印』、『彷徨い人』と、この作者の作品は、知り得る限り、すべて読んでいると思います。ついでながら、『目線』を原作とし仲間由紀恵が主演したテレビ・ドラマも見た記憶があります。主人公が車いすというのがポイントで、小説の最後の方までそれを感じさせずに話を進めるのがミスダイレクションの醍醐味だったんですが、テレビ・ドラマの映像では最初から主人公が車いすというのがバレバレで、小説ほどの面白みはなかった気がします。私は見ていませんが、前田敦子主演の『イニシエーション・ラブ』の映画化も同じような問題があったような気もします。と、前置きが長くなりましたが、まず、本作品はほぼ倒叙ミステリに近い展開です。スーパー経営者一族のドラ息子が小学生の女の子を交通事故で死なせ、その母親であるシングル・マザーによる復讐劇です。個所を起こした本人をはじめ、交通事故のケガ人の受け入れを拒んだ病院の外科医、さらに、疑問が残る目撃証言をした主婦、などがターゲットとなり、どのように復讐がなされるか、に主眼が置かれています。被害者の少女にまつわる広い意味での人間のあり方がテーマになるんでしょうが、登場人物がステレオ・タイプというか、かなり人為的・作為的なキャラの立て方であり、現実味に薄いことから、感情移入が難しいんではないかという気もします。もう少し悩める一般人に近い人物キャラを立てるわけにはいかなかったのでしょうか。プロットはそれなりに出来ているだけに、登場人物のキャラがあまりにありきたりで平板な点が惜しまれます。特に、ラストが「やっぱり、こうなるんだろうな」という締めくくりで、もう少しひねりがあってもいいような気がします。

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次に、小川糸『ツバキ文具店』(幻冬舎) です。まずまず売れっ子の小説家の最新作です。私はこの作者の作品は『食堂かたつむり』しか読んだことがないような気がします。ひょっとしたら、短編集の『あつあつを召し上がれ』も読んだような気がしないでもないんですが、中身はまったく記憶にありません。ということで、この作品は鎌倉を舞台に20代後半の独身女性が「先代」の祖母から引き継いだタイトルのツバキ文具店を運営していくストーリーです。夏から始まって、四季それぞれの鎌倉を4章に渡って描き出しています。ただ、文具店といいつつも、実際の活動としては代書が中心になります。もっとも、「代書屋さん」といえば、運転免許証更新の際になどに申請書類を書いてくれるところというイメージなんですが、本書では主として手紙、あるいは、メッセージカードの中身も含めて書いてくれる職業らしいです。相変わらず生活感は皆無なんですが、なかなか、ほのぼのとした小説です。最後の方では不自然なくらいにカップルが誕生します。ただ、気になるのが2点あり、最初に登場する代書の作品はペットの猿の死に際した不祝儀のお悔やみ状なんですが、「ご冥福」とあります。我が家は浄土真宗の一行門徒で、私くらいに温厚であれば苦笑するくらいで済ませるものの、浄土真宗の信者であれば激しい気性の人も少なくなく、「冥福」と「霊前」には怒り出す可能性があります。また、本書とは関係ありませんが、この季節で、浄土真宗ではお盆にも特別なお飾りとか迎え火や送り火はしません。もうひとつは、文具四宝に関するウンチクはとてもいいと私は思うんですが、CAの汚文字さんが義母煮だすカードは別にして、手紙はほとんど罫の入った用紙を使っている気がします。私の記憶が正しければ、夏目漱石だったと思うんですが、罫の入った用紙の手紙は失礼に当たる、という旨の覚書があったような気がします。ベルギー製の紙や羊皮紙もいいんですが、罫の入った紙とそうでない場合などのウンチクも欲しかった気がします。

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最後に、八代尚宏『シルバー民主主義』(中公新書) です。著者は私のような官庁エコノミストの先輩に当たり、最近では規制改革の分野でご活躍と記憶しています。作者のあとがきにもありますが、本書は、米国ブルッキングス研究所のセミナーに著者が参加したことが出発点となっているようです。その2014年12月に開催されたセミナーと著者のプレゼン資料へのリンクを最後に置いておきます。ということで、私が従来から主張している世代間不平等とバランスを失した引退世代の高齢者優遇について、本書では論じています。人口動態と時間の機会費用に裏付けられた投票率の動向などから、現行の民主主義的な投票制度の下では、圧倒的に高齢者に有利なシルバー民主主義が支配的となっており、本書では「高齢者ポピュリズム」とも呼んでいますが、高齢者に有利な制度の導入や不利な制度への拒否権発動などが明確に現れています。特に、本書は「全日本年金者組合」が年金引下げを違憲として提訴した研から話を始めており、高齢者優遇策、特に、年金と医療の社会保障の高齢者優遇について、財政バランスも含めて、早期に是正すべきとの論を展開しています。本書がすぐれているのは、高齢者が投票行動を通じて自らの優遇策を改めるとは考えられないとして、孫の待遇悪化などの高齢者の利他的な心情に訴える戦略も取り上げている点です。私はこの点は代議制の間接民主主義の下で、国民に選ばれた選良が民意を歪める可能性を考えていましたが、それなりに有意義な観点かもしれません。ただ、本書は介護や医療のシルバー市場の展開を見据えていますが、私には少し疑問が残ります。情報の非対称性の下で、市場システムが効率的かどうかが不明だからです。さらに、私としては、高齢者の資産に着目した税制、あるいは、とても極端にいえば、年金はともかく、介護においてはミーンズ・テストの必要性がそのうちに論じられる可能性もあるんではないか、とまで考えており、高齢者の資産蓄積に着目した負担のあり方を議論すべきと考えます。さらに、高齢者の中でも、我が国の大きなコーホートである団塊の世代の行動様式にも、もう少し着目して欲しかった気がします。
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